経営と現場を繋ぐ組織マネジメント実践コラム
AI・人材・制度の問題を“組織設計”で解決するための実務解説

「管理職に任せられない」は、経営者側の構造問題だった

 信頼して管理職に登用した社員が、なぜか現場で機能しない。そう感じたとき、 
 「あの人の問題だ」と結論づけていませんか。しかし実は、機能しない管理職を生
 み出しているのは、経営者自身が整えてこなかった「仕組みの欠陥」かもしれま
 せん。

 

 管理職が機能しないのは、個人の問題ではない

 リクルートマネジメントソリューションズが2024年に実施した組織課題調査では、企業の66.0%が「次世代経営人材が育っていない」を課題の1位に挙げています。これは特定の業界や規模に限った話ではなく、日本の中小企業全体に共通する構造的な問題です。
「うちの管理職が使えない」と感じているとすれば、それは管理職個人の資質だけの問題ではなく、管理職が機能できない「仕組み」の問題である可能性が高いのです。

 

管理職を機能させられない「4つの構造欠陥」
 では、どういった欠陥が管理職の機能を妨げているのでしょうか。現場でよく見られる4つのパターンを挙げます。
①権限の輪郭がない

「任せた」とは言ったものの、どこまでが管理職の権限なのか、誰も正確に把握し
 ていない。管理職は判断を求められるたびに「社長に確認してから」と答えるし 
 かなくなります。

②評価基準がプレイヤー時代の延長になっている

 数字を出している人が高い評価を受け、部下を育てている管理職は報われない。  
 これでは「部下に任せず自分でやろう」という管理職が量産されてしまいます。

③経営者のマイクロマネジメント

 現場を見てきた経験では、多くの経営者が知らず知らずのうちに管理職の判断を
 先取りしています。社長が直接現場に介入するほど、管理職は「自分が動く前に社
 長が決める」という経験を繰り返し、主体性を失っていきます。

④マネジメントをそもそも教えていない

 「実力があるから管理職に」と昇格させたものの、部下の指導方法や業務設計の進
 め方は誰も教えていない。そのまま昇格させてきた結果、「やり方がわからないま
 ま管理職になった人」が積み上がっていきます。

 

「構造が先、育成が後」——この原則が逆になっているから研修が効かない 
 
管理職研修を実施してもなかなか変わらない。そういったご相談を受けるとき、背景にはほぼ共通して「育成と構造の順序が逆になっている」という問題があります。権限が曖昧なまま、評価基準もプレイヤー時代のまま、社長が現場に介入し続ける環境で研修を受けても、学んだことが行動に転換されません。根の張れない土台では、どんな種を植えても育たないのです。

 まず整えるべきは、欠陥①②③にそれぞれ対応する3つの構造です。

 Step1:権限テーブルを書き出す(欠陥①への対処)

 決裁金額・採用の可否・業務指示の範囲など、管理職が「自分で決めていいこと」  
 を文書化します。曖昧な「任せた」を、具体的な権限の一覧に変えることが第一
 歩です。

Step2:評価項目にマネジメント行動を加える(欠陥②への対処)

 「部下への指示・フィードバックの質」「業務の仕組み化への貢献度」など、マネ
 ジメント行動そのものを評価する項目を設けます。評価基準が変われば、行動が変
 わります。

Step3:経営者自身の介入ルールを決める(欠陥③への対処)

 「管理職を通さない直接指示はしない」「管理職の決定を後から覆さない」——こ
 うした自分自身へのルールを決め、現場に宣言することです。社長が手放すこと
 で、初めて管理職が動けるようになります。

 

 3つの構造を整えて初めて、研修や1on1などの育成施策が意味を持ちます。欠陥④「マネジメントを教えていない」という問題も、権限・評価・介入ルールが整った環境であれば、OJTや日常業務の中で自然と補われていくものです。

 構造なき育成は、穴の開いたバケツに水を注ぐようなものです。先に穴をふさぐこと——それが、研修費用を無駄にしないための前提条件です。

 

明日から「1つだけ手放す」を決める

「全部やらなければ」と感じた方もいるかもしれません。しかし、最初の一歩は小さくていいのです。まず「1つだけ権限を手放す」ことから始めてみてください。例えば、備品購入の決裁を管理職に委ねる。クレーム対応の初動判断を管理職に任せる。それだけでいい。一つ手放すことで、管理職は「自分が決めていい」という経験を積み始めます。

 最後に、一つ問いかけさせてください。
 

 「あなたが今週、管理職の代わりに判断したことは、何件ありましたか?」

 

管理職の問題を解く鍵は、管理職の外にあります。構造を整えた先に、機能する管理職が生まれる。今日から、まず「1つだけ」手放すことを決めてみてください。

採用は「コスト」ではなく「投資」——
        中小企業がお金をかけるべき本当の理由

 「求人を出しても応募が来ない」「やっと採れた人がすぐ辞める」
 この2つの悩みを、最近の経営相談でセットで聞くことが増えています。        

 

   採用がうまくいかない原因を「景気」や「運」のせいにしてしまう経営者は少なくありません。しかし実際にデータを見ると、採用の現場は静かに、しかし確実に構造が変わっています。

 

 「お金をかけなければ採れない」時代になった

 中小企業庁「2025年版中小企業白書」によると、中小企業の採用手段は「ハローワーク」が50.8%で最多であるものの、「求人情報会社(求人サイト等 )」が48.4%と肉薄し、前年から6.0ポイントも増加しています。無料の手段だけでは人が採れず、有料の求人広告やサービスへ流れている企業が増えているのです。

  実際、3〜300人規模の中小・中堅企業における求人広告の平均出稿単価は30万円台前半で推移しており、採用1人あたりのコストは新卒・中途を合わせて80万〜110万円程度が相場とされています。かつて「求人は出せば人が来る」時代がありましたが、今は「お金をかけて初めて応募が来る」時代に変わりました。これは一時的な傾向ではなく、人口減少が続く以上、今後も強まっていく構造です。

 

本当に痛いのは「採用できないこと」ではなく「辞められること」

 ここで多くの経営者が見落としている点があります。採用費がかさむこと自体は、実は最大の損失ではありません。最大の損失は、お金と時間をかけて採用した人が、定着せずに辞めてしまうことです。
 求人広告費・面接対応の人件費・研修コスト・引き継ぎロスを合わせると、1人の早期離職は数十万円から100万円超の損失になり得ます。さらに、欠員が出た現場では既存社員の負担が増え、それが次の離職を招くという悪循環も起こります。「採用できないこと」よりも「採用してから失うこと」のほうが、経営に与えるダメージは大きいのです。

 

まとめ 採用費は「コスト」ではなく「投資」として設計する
 採用にかかるお金を単なる出費と捉えると、経営者はどうしても「できるだけ安く済ませたい」という発想に傾きます。しかしその発想こそが、定着しない採用を招く原因になりがちです。 
 採用費は、将来その人が生み出す利益のための「投資」です。投資であるなら、媒体選びや広告費だけでなく、入社後の定着支援(オンボーディング
・面談の仕組み化など)まで含めて初めて回収できると考えるべきです。「いくらで採るか」だけでなく「採った人にどれだけ長く活躍してもらえるか」まで見据えた採用予算の組み方が、これからの中小企業に求められています。

25卒の4割が「入社1か月」で転職を意識
早期退職を招く3つのギャップ

「 今年の新入社員が、もう転職を意識しているとしたら?」

  驚く前に、確認しておきたいことがあります。2025年4月の調査では、25卒の約4割が入社1か月以内に転職を意識したと回答しています。この数字を「最近の若者は我慢が足りない」と読んでしまうと、対策の方向を誤ります。問題は世代の特性にあるのではなく、職場の設計にあるからです。

 

 

 辞めやすい世代」という誤解

 リクルートワークス研究所のデータは、Z世代の離職率が過去の世代と統計的に大きな差がないことを示しています。若者が特別に辞めやすくなったわけではありません。
 変わったのは環境です。転職サービスはスマートフォン一つで使え、SNSでは他社の職場情報が日常的に流れてきます。今の新入社員は、入社翌日から「ここと他社を比べられる状態」に置かれています。辞めやすいのではなく、比べやすい時代に生きているのです。この違いを正しく認識することが、的外れな対策を防ぐ出発点になります。

 

退職を決める3つのギャップ──制度より「日常」

 調査データと現場の声を重ねると、早期退職を招くギャップは3つのパターンに集約されます。
  一つ目は「仕事内容のギャップ」です。採用時の説明と、配属後の実務がかみ合わないケースです。中小企業では入社直後から「なんでもやってもらう」運用になりがちで、本人が描いていたキャリアイメージとの間にずれが生じやすくなります。「聞いていた仕事と違う」という感覚は、入社後ほど鮮明に響きます。
 二つ目は「職場の雰囲気のギャップ」です。今回の調査で、女性が感じる悪いギャップの1位がこれにあたります。面接の場では温かく迎えてもらえたのに、配属後は「見て覚えろ」の文化だった、というケースは珍しくありません。採用担当者と配属先上司の対応に落差がある職場では、特に起きやすい構造です。
 三つ目は「成長機会のギャップ」です。リクルートワークス研究所のデータによれば、Z世代は「この職場で成長できるか」を職場選択の最上位基準に置いています。

  言い換えれば、成長環境への期待を抱いて入社してきます。そして入社後に「何も教えてもらえない」「任せてもらえない」と感じた瞬間、比較対象としての他社の魅

 力が相対的に上がります。制度の充実した大企業の名前が、頭の中に浮かびはじめのです。この感覚は、入社後の最初の数週間で生まれ、あとから覆すのは難しい。

 

 中小企業が勝てる土俵

  では、何から手をつけるか。答えは一点に絞れます。
「入社後の期待値すり合わせ」です。入社前後に、仕事の内容・職場の文化・最初の3か月で期待することを言葉にして伝える。そして入社後1か月は、週1回・10分の1on1を必須にする。「今週うまくいったことは何か」「困っていることはあるか」のたった2問でよい。カレンダーに30日分の枠を今日中に入れてしまえば、明日から始められます。 
 大企業と同じ研修制度やキャリアパス設計は、中小企業にはなかなか作れません。しかし、一人ひとりへの目配りでは、中小企業のほうが勝てます。人数が少ない分、経営者や上司の言葉が社員に直接届く構造があるからです。大企業が持てない武器を、使わない手はありません。

 

まとめ
 早期退職は、若者の特性の問題ではなく、職場の設計の問題です。そして設計は、今日から変えられます。まず今日、来週の1on1の予定を一つ入れてください。それが、採用コストをかけずに定着率を上げる最短ルートです。

管理職が育たない会社は、社長が原因かもしれない

 「人が採れない。やっと入ってきた人材がまた辞めた」——そんな声を、経営者からよく聞きます。人手不足と賃上げが重なる今、現場を任せられる管理職の存在は、かつてないほど重要になっています。しかし現場を深く見ていくと、「管理職が育たない」問題の根っこは、管理職本人ではなく、社長自身の行動にあることが少なくありません。
 

 社長の行動が、管理職の成長を止めている

 管理職研修を実施しても、なかなか変わらない——こんな経験はないでしょうか。育たない職場には、社長の行動に共通したパターンがあります。思い当たるものがないか、確認してみてください。

① 先回りして答えを出す
 
会議で管理職が話し始めた瞬間、「それはこういうことだろう」と社長が先に結論を言ってしまう。管理職は「そうです、おっしゃる通りです」と続けるだけ。翌月の会議でも、管理職は自分の意見をほとんど言わなくなっていた——。判断する機会を奪われた管理職は、考えることをやめていきます。

 ② 管理職を飛び越えて現場に直接指示する
 「ちょっといい?」と社長が現場スタッフに直接声をかけ、その場で指示を出す。管理職は後から「そんな話になっていたの?」と知ることになります。これが続くと、スタッフは「管理職より社長に聞いた方が早い」と学習してしまいます。管理職はいても意味のない存在になっていきます。

③ 管理職の判断を後から覆す
 主
任がスタッフのシフトを決めた翌日、そのスタッフが「社長に直接頼んだら変えてもらえた」と言い出す。主任は何も言えません。管理職の決定が「社長に言えばどうにでもなる」と形骸化すると、管理職の言葉はチームに届かなくなります。

④ 「任せた」と言いながら実権を手放さない
 「主任に任せる」と宣言したにもかかわらず、5万円以上の発注は「一応、俺に確認して」。採用の最終判断も「やっぱり俺が決める」。主任は承認を待つだけの係になり、自分で考えることをやめていきます。責任だけがあって、権限がない状態では、管理職は育ちません。
 ⑤ 「自分でやった方が早い」と全部こなす
 
「説明している時間がない」「自分がやれば5分で終わる」——この発想が積み重なると、管理職は出番を失い、社長は永遠に現場から抜け出せなくなります。社長が動き続けるほど、組織は社長なしでは動けなくなっていきます。

 

善意が、育ちを止めている

 どの行動にも、悪意はありません。「早く解決したい」「スタッフを傷つけたくない」——社長としての善意や責任感から出た行動です。しかしその善意が、管理職の成長を静かに止めています。
 
最低賃金は上がり続けています。人件費が増えるなか、一人ひとりの生産性を上げなければ、利益は削られる一方です。生産性を引き上げるのは、管理職の役割です。中途採用者の離職理由の上位には、常に「上司・職場環境への不満」が入ります。採用にかかるコストは、求人費・教育費・引き継ぎロスを合わせると一人あたり数十万〜百万円超になることもあります。そのコストが、管理職の問題で繰り返されているとしたら、これは経営上の大きなリスクです。

 管理職が機能する会社と、社長一人が現場を引っ張る会社では、組織がスケールできる限界がまったく違います。人を増やしても、任せられる人がいなければ、現場は混乱するだけです。

 

社長に問いたいこと
 
管理職に「もっとしっかりやれ」と言う前に、一度立ち止まって考えてみてください。「あなたは、管理職が自分で決断できる環境を、つくっていますか?」
管理職を育てるとは、研修を受けさせることではありません。判断の機会を与え、失敗を許容する文化を、社長がつくることです。人手不足の時代、「社長がいないと動かない会社」はいずれ限界を迎えます。今こそ、組織のあり方を見直す決断が求められています。

 管理職が育たない原因の多くは、社長の関与のしすぎにあります。権限を渡し、判断を任せることが、管理職育成の第一歩です。人手不足・賃上げの時代に、「人が育つ仕組み」への投資は、もはや経営判断そのものです。

扶養の壁でシフトが埋まらない…の前に。
算定基礎届の季節に「社会保険料」を経営課題として整える

 パート・短時間社員の方から「これ以上働くと損ですか?」と聞かれ、対応に迷ったことはありませんか。いわゆる「年収の壁」は、税・社会保険・会社制度が重なって“手取りの段差”が生まれる現象です。

 ただ、今この時期(算定基礎届の提出時期)は、まだ「シフト調整で壁を避ける、超える」を議論する段階ではない会社も多いはずです。従業員30名程度の中小企業であればなおさら、まずは経営者が意識しやすいテーマは 社会保険料です。
 
社会保険料は、ざっくり言うと「標準報酬月額」に基づいて決まり、算定基礎届(毎年の定時決定)の結果が反映されると、本人負担・会社負担の両方が動きます。つまり、年収の壁の話は“本人の手取り”だけでなく、会社の人件費設計にも直結します

 

いまは「壁の議論」より「保険料の見える化」

 年収の壁は、結局「働き方の選択」と「制度の適用」が絡む話です。いきなり“数字の壁”を説明しようとすると、現場は混乱します。そこで順番を変えます。

 この時期は次の2点だけで十分です。
 (1) 今年の算定で、誰の標準報酬月額がどう動きそうか

 (2) 今は加入義務がない人が多くても、将来は状況が変わる可能性がある

実務チェック①:算定基礎届で“ズレ”が出やすいポイント
 経営者が押さえるべきは、制度の暗記ではなく、毎年ズレが起きやすい論点で 
 (ここがズレると、本人の手取りだけでなく会社負担にも影響します)。

・報酬に入る/入らないの整理ができているか
  
基本給・手当など「毎月もらうもの」は原則として報酬になりやすい。通勤手
  当なども扱いが絡むため、給与明細の設計と連動して確認が必要

・4〜6月の支払い(対象期間)に“例外的な支給”が混ざっていないか
  
一時的に残業が増えた/手当をまとめて払った等があると、標準報酬が上が
  り、その後の保険料が上がりやすい

・短時間社員の「実態」が、契約(所定)とズレていないか
  
所定は短くても、実態が恒常的に伸びている場合、将来の加入判定・説明コス
  トに跳ね返ります

実務チェック②:30名規模でも“今後、加入対象が増える”可能性を織り込む
 
現時点では、一定の要件(いわゆる企業規模要件等)があるため、短時間社員でも加入義務が発生しないケースが多い会社があります。特に30名規模だと、「今は対象外」が多く見えやすい。ただし、この領域は制度が動いてきましたし、今後、企業規模要件が撤廃されていく方向で議論・検討が進むと、状況は変わります。つまり、これまで「壁=本人の都合」で済んでいた話が、将来は「加入=会社の実務・コスト」に変わる可能性がある、ということです。
 
今からできる備えは、大きく3つです。
対象候補のリスト化
 短時間社員のうち労働時間・賃金・契約形態が“加入ラインに近い”人を把握する

・人件費の感度分析
 加入が増えた場合の会社負担(概算でよい)を見ておく
・説
明の型を作る
 「損か得か」ではなく、保障と将来給付も含めて“選び方”として伝えるテンプレを
 用意する

実務チェック③:現場トラブルを減らす「伝え方」のコツ
 
年収の壁の相談が揉めるパターンはだいたい同じです。「保険料が上がる=損」とだけ理解され、会社への不信感につながる。そこで、経営者・管理職の説明は次の順番に寄せます
 
事実:算定(定時決定)で保険料が動く仕組みがある
 
影響:本人負担だけでなく会社負担も動く(人件費にも関係する)
 
選択肢:働き方の希望は尊重するが、制度の適用は条件次第で変わる
 
約束:制度が変わる可能性もあるので、会社としては事前に共有していく
イントは、制度の講義をしないこと。必要十分な情報に絞り、本人の意思決定を支える“提案”にします。

まとめ:この時期は「保険料の見える化」から始める
 
扶養の壁でシフトが埋まらない問題は、いつか必ず出てきます。ただ、今この時期は、まず算定基礎届をきっかけに **社会保険料を“経営課題として見える化”**するのが先です。従業員30名規模でも、今は企業規模要件等で加入義務がない人が多く見える会社ほど、将来の制度変更で「急に対象が増える」リスクがあります。だからこそ、今年は算定でズレが出やすい点の確認、対象候補の棚卸し、説明の型づくり、ここまでを“土台”として整えておくのが、現場トラブルと採用難の両方を減らす近道です。

法改正対応を先送りすると何を失うか
             2026年育児・介護休業法改正、中小企業がいま動く理由

 

 20264月、育児・介護休業法がまた改正されました。就業規則を書き換えた。 それは正しい一歩です。しかし、法改正対応の本丸は「書類」ではなく「運用」にあります。

 専任の人事担当がいない中小企業では、「制度はある、でも現場では機能していない」という状況が起きやすい。今回の改正は、その現実に対して行政が一段と踏み込んできた改正です。順番を間違えないことが、対応の成否を分けます。

今回の改正で何が「義務」になったか

 2026年4月施行分に絞って整理します。「義務」と「努力義務」では、対応の優先度がまったく異なります。
 

【義務化】
介護直面労働者への個別周知・意向確認            

介護休暇の勤続要件(6ヶ月未満除外)撤廃 (就業規則改定)  

【努力義務化】

育児期の柔軟な働き方の整備(短時間勤務・テレワーク等の選択肢拡充) 

育休取得しやすい職場環境づくりの体制整備 

書類より怖い、「運用リスク」の実態

 就業規則を改定しただけでは不十分——この点が今回の改正で最も見落とされやすいポイントです。

意向確認の「記録漏れ」が法的リスクになる

 介護が必要な状況に直面した社員に対して、会社は個別に周知・意向確認をする義務があります。ここで注意したいのが「記録」です。

 口頭で伝えた、口頭で確認した。その認識だけでは、後日「言った・言わない」の問題が生じたとき、会社が不利になる可能性があります。意向確認は文書またはメールで行い、記録として残しておくことが現実的な自衛策です。

管理職の「うっかり発言」も問題になる

 育休や介護休業の申出を受けた管理職が「このタイミングでですか?」「戻ってこられますよね?」と何気なく口にする・・・こうした言葉が、後に「圧力をかけられた」と問題化するケースがあります。管理職への教育なしに制度だけ整えても、現場リスクは消えません。

「育休は女性の問題」という認識は今すぐ手放す

 男性からの育休申出への対応手順が決まっていない会社は、まだ多いのが現状です。しかし、男性育休の取得推進は法改正の中核にあり、100人超の企業では取得率の公表義務まで課されています。「うちは女性が少ないから関係ない」という認識は、すでに通用しません。

 

「やっているつもり」チェックリスト

自社の運用を点検してみてください。

☐ 意向確認を口頭だけで済ませていないか(文書・メールで記録しているか)

☐ 育休・介護休業の申出を受けた管理職への対応教育を実施しているか

☐ 男性社員から育休申出があった場合の対応手順が決まっているか

☐ 介護休暇の勤続要件撤廃を受けて、就業規則の該当箇所を改定済みか

☐ 「制度はあるが誰も使っていない」状態になっていないか

1つでも「No」があれば、今すぐ着手するサインです。

中小企業の現実解——優先順位付き3ステップ

「完全対応は難しい」という本音、よくわかります。だからこそ、優先順位を付けて動くことが大切です。

 

Step 1:今月やること

就業規則の改定 + 意向確認フローの文書化

 迷った場合は、就業規則の改定を先に進めてください。介護休暇の勤続要件撤廃への対応は法的義務であり、就業規則の文言が古いまま運用すると、規程違反のリスクが生じるからです。就業規則を整えたあと、意向確認を誰がいつどのように行うか、フローを1枚の紙に落とすことで、現場の混乱がぐっと減ります。
⇒ この一手で得られるもの:行政指導リスクの大幅な低減

Step 2:3ヶ月以内にやること

管理職向け勉強会 + 業務の属人化解消に着手

 育休・介護休業対応で最も現場を混乱させるのは「あの人がいないと回らない」という状況です。管理職への簡単な勉強会と同時に、属人化している業務の棚卸しを始めておくと安心です。

⇒ この一手で得られるもの:現場の不公平感の軽減と、取得しやすい空気づくり

Step 3:中長期でやること

育休取得実績の採用活用 + 助成金の活用

 制度整備が進んだら、それを採用の強みとして打ち出すことができます。「育休取得実績あり」は、特に若い世代の求職者に響くメッセージです。

 

また、以下の助成金も検討に値します(いずれも要件を満たす必要があります)。

• 出生時両立支援コース:最大20万円(男性育休取得推進)

• 育児休業等支援コース:最大30万円(育休取得・職場復帰支援)

• 介護離職防止支援コース:最大20万円(介護休業の整備・取得支援)

 注意点として、助成金は制度整備後に申請するものが多く、順序を間違えると受給できなくなる場合があります。申請前に要件を必ずご確認ください。

⇒ この一手で得られるもの:採用競争力の向上とコスト回収の両立

 

法改正対応は「コスト」か「投資」か

 法改正対応を「やらされている作業」と捉えると、最低限の対応で終わります。しかし視点を変えると、これは「働きやすい職場をつくる仕組みを整える機会」でもあります。
 
育休や介護休業を取りやすい環境は、離職率の低下につながります。採用コストの削減にもなります。逆に、対応を後回しにした場合を想像してみてください。5年後、「育休が取りにくい会社」という評判はじわじわと広まり、20〜30代の採用応募が減り、ようやく育てた社員が介護や出産を機に辞めていく——そのループが、人手不足に悩む中小企業をさらに追い詰めます。制度整備を先行させた企業が、求人票に「育休取得実績あり」と一言添えるだけで応募数が変わる、という声はすでに現場から聞こえています。
 
まず1つ、今月の着手点を決めてみてください。「何から手をつければいいかわからない」という場合は、ご一報ください。初回相談は無料です。貴社の状況を整理し、優先順位付けを致します。

組織が回らない会社は何から手をつけるべきか? 
優先順位の決め方

 

「組織を良くしたい」そう思って施策を打っているのに現場は変わらない。


 むしろ、 忙しくなる” ”混乱が増える” ”結局元に戻る”

 こんな状態に陥ることがあります。こうした場合の問題は明確です。

 

“やり方”ではなく、“構造”が間違っています

  その構造は、会議室では見えません。現場の会話にすべて出ています。

 以下は、実際によく起きている会話です。

管理職が機能していないIT企業(社員数35名)

部下  「〇〇の案件、納期間に合わないです」

部長  「え?なんで今それ言うの?」

部下  「いや…前からちょっと怪しくて…」

部長  「いやいや、もっと早く言ってよ」

部下  「相談しようと思ったんですけど、忙しそうだったので…」

部長  「……で、どうするの?」

部下  「どうすればいいですか?」

    「……(沈黙)」

部長  「ちょっと待って、社長に聞く」


社長  「またそのパターン?」

部長  「いや…判断が難しくて」

社長  「判断が難しいんじゃなくて、判断してないだけでしょ」

社長に頼りきりの店長(飲食業・28名)

店長  「すみません、来週のシフトなんですが…」

社長  「また?」

店長  「金曜の夜が足りなくて…」

社長  「で、どうするつもり?」

店長  「どうしたらいいですか?」

社長  「……いや、それを考えるのが店長でしょ」

店長  「はい…」

(沈黙)

社長  「じゃあ佐藤さんは?」

店長  「難しいです」

社長  「じゃあ俺が入るよ」

店長  「すみません…」

よくある失敗パターン

 こうした状態で企業が最初にやることは、実はかなりパターン化されています。

興味深いことに、それぞれに対して“ほぼ同じズレた対応”が取られます。

 

 管理職が判断できない会社が企業がまずやるのはこれです。

 ・外部講師を呼んで「管理職研修」を実施

 ・リーダーシップやコミュニケーションの座学

 ・「主体性を持て」というメッセージの強化

一見すると正しい打ち手です。しかし現場ではこうなります。

 ・研修直後は少し意識が上がる

 ・しかし1週間後には元通り

 

何故でしょうか?

 ・何を判断していいか決まっていない

 ・どこまで責任を持つか曖昧

 ・評価も連動していない

 この様に“判断していい前提”が存在しない状態で研修だけやっているからです。

 


 社長に頼り切りの店長がいる会社がよくする対応がこれです。

 ・店長会議を増やす

 ・「店長に任せる」と宣言する

 ・マニュアルやルールを増やす

しかし現場では、

 ・結局また社長がシフトに入る

 ・店長は“相談待ち”のまま

 ・会議だけが増える

という結果になります。

 

何故でしょうか?

 ・どこまで店長が決めていいか決まっていない

 ・失敗した時の責任の取り方が曖昧

 ・判断基準が言語化されていない

「任せる」という言葉だけで設計が存在しないからです。

 

「構造を無視して、施策だけ打っている」点が共通点です。

 ・研修をやる

 ・会議を増やす

間違いではありません。

 しかし“前提となる設計”がない状態で実行しているため、機能しません。

  一言で言うと 症状に対して対処しているだけで、原因に触れていない

優先順位の設計の仕方

では何から手をつけるべきか。結論は明確です。

 ■ 第1優先:役割の定義

 まずやるべきは「誰が何をやるか」を明確にすることです。

ここで重要なのは、「業務」ではなく「役割」で考えることです。

 NG:作業単位で分ける

 OK:責任単位で分ける

例) 

 ・現場責任者は「売上責任」を持つ

 ・管理職は「人の成長責任」を持つ

このレベルまで言語化することが大切です。

■ 第2優先:意思決定の設計

 次に「どこまで任せるか」を決めます。ここが曖昧な会社は非常に多いです。

 ・報告は来るが判断は全部社長

 ・責任は管理職だが決定権がない

これでは機能しません。最低限決めるべきは

 ・現場判断でOKな範囲

 ・上長承認が必要な範囲

 ・社長判断の範囲

判断の線引き”を設計することが必要です。

■ 第3優先:管理職機能の再定義

多くの会社で 「管理職=プレイヤー上位」になっています。

しかし本来は違います。管理職の役割は

・判断

・調整

・育成

です。ここを定義しない限り、忙しいだけの管理職”が量産されます。

■ 第4優先:制度を整備する。

 評価制度・給与制度は「最後にやるべきもの」です。理由は明確で、上記3つが決まっていないと“評価できない”からです。
 
制度から入ると「形だけ整ったが回らない組織」になります

管理職が機能していない会社(IT企業)の改善例


【第1優先:役割が曖昧】

 

現場(Before)

社長  「マネージャーなんだからちゃんと管理してよ」

部長  「管理って具体的に何をすればいいですか?」

社長  「そこは考えてよ」

 

再設計(After)

社長  「マネージャーの役割は“納期と品質の責任”を持つこと」

部長  「つまり、遅れそうな案件は事前に把握して対応するということですね」

責任が言語化されると行動が変わる

 

【第2優先:判断の曖昧さ】

 現場(Before)

部長  「この案件どうしましょうか?」

社長  「どう思う?」

部長  「難しいので判断お願いします」

再設計(After)

社長 「納期・人員調整はマネージャー判断で進めていい」

部長 「では、リソースを再配置して対応します」

判断範囲が決まるとエスカレーションが減る

 

【第3優先:管理職機能の崩壊】

 現場(Before)

部下 「進捗遅れてます」

部長「今忙しいから後で」

(放置)

見る時間がない管理職”は存在しないのと同じ

 再設計(After)

部長 「週次で全案件レビューする。遅れはその場で調整する」

部下 「早めに相談できるので助かります」

管理職が“回す役割”になる

【第4優先:制度の機能不全】

現場(Before)

部長 「評価って何を見ればいいんですか?」

社長 「総合的に」

評価できない=何を求めているか決まっていない

再設計(After)

社長 「評価は“納期遵守率”と“チーム進捗管理”で見る」

部長 「判断しやすくなりました」

まとめ

 回らない組織に共通しているのは**順番を間違えていることす。

制度や研修から入るのではなく、

役割 → 判断 → 管理 → 制度

この順番で設計することで初めて“組織が回る状態”になります

 

ここまで整理すると、多くの経営者がこう思います。

「まだ、うちはそこまで整理しなくても…」

しかし実際には人数が増えた瞬間に破綻します。

 特に

・30人前後で一気に問題が顕在化します。これは個々人の能力の問題ではなく

構造の限界です。

 

組織改善は「何をやるか」ではなく「どの順番で設計するか」で決まります。

そしてその本質は「人ではなく構造の問題」です。

当事務所では、
・意思決定の整理
・管理職の役割設計
・業務の標準化
・AIによる再現化 
を通じて、組織が自走する仕組みを構築します


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現在の状態を整理したい方は「組織診断(30分)」をご利用ください
・なぜ組織が回らないのか
・何から手をつけるべきか
を明確にします。

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岡本 雅行

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中小企業の労務管理と人手不足解消をサポートする三軒茶屋の社会保険労務士